AUDは苦手というUSCPA受験生が多いようだよ。
決して難しい科目ではないのだけど、なかなか理解するのが難しいのかな。
少しでも理解しやすくなるよう、AUDのBlueprint(ブループリント:試験の設計図)に基づいて、AUDの基礎を全4回で解説していくね。
今回は1回目で、監査の開始と計画、BlueprintのAreaⅠとⅡの一部だよ。
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なぜ「監査の開始と計画」が重要?
今回は、全ての監査の出発点であり、その後の監査全体の質と効率を大きく左右する「監査の開始と計画」フェーズに焦点を当てて、初心者が押さえるべき知識を解説します。
この領域は、単なる手続きの暗記ではありません。
なぜ監査人が特定の判断を下し、どのような手順で計画を立てるのかを理解することは、監査というプロセスの根幹をつかむ上で不可欠です。
USCPA試験のブループリントにおけるエリア1(倫理、専門職としての責任、一般原則)およびエリア2(リスク評価と計画的な対応策の策定)の基礎となる最重要領域ですので、ここでしっかりと土台を固めていきましょう。
もし音声で理解したい場合は、USCPAどこチャンネルの【AUD基礎 1/4】監査の開始と計画 USCPA受験生向け をご覧ください。
1. 監査の根本目的:社会における信頼の基盤
そもそも、なぜ企業は独立した監査人にお金を払ってまで監査を受けるのでしょうか?
一度考えてみてください。
その答えは、監査が持つ社会的な役割にあります。
企業の財務諸表(決算書)は、株式を購入しようとする投資家、融資を行う銀行(債権者)、あるいは取引先など、非常に多くの利害関係者が重要な意思決定を行うために利用します。
彼らが最も知りたいのは何でしょうか?
「この財務諸表に書かれている数字は、本当に信頼できるのか?」という一点ですよね。
もし企業が自社の都合の良いように数字を操作できてしまうなら、どうなるでしょうか?
その情報を信じた人々は大きな損害を被る可能性がありますよね。
そこで、企業とは利害関係のない独立した専門家である私たち監査人の出番となります。
監査人は、専門的な知識と技術を用いて、財務諸表が公正な会計基準に基づいて適正に作成されているかを検証します。
そして、その結果について「保証(アシュアランス)」、つまり「お墨付き」を与えるわけです。
この保証があることで、社会の誰もが安心して財務諸表を信頼し、経済活動を行うことができる!
これこそが、監査の根本的な目的であり、社会の信頼を支える基盤としての役割なのです。ね。
2. 監査の第一歩:クライアントを引き受けるかどうかの判断(Client Acceptance)
監査人は、どんなクライアントからの依頼でも引き受けるでしょうか?
実は、無条件に引き受けるわけではありません。
監査契約を結ぶ前には、厳格な審査プロセス、すなわち「クライアント・アクセプタンス」が行われます。
(1)最重要項目:経営者の誠実性(Integrity)
クライアント・アクセプタンスにおいて、報酬額よりも何よりも重視されるのが、クライアント経営陣の「誠実性(Integrity)」です。
なぜでしょうか?
それは、監査は基本的にクライアントから提供される情報や説明が出発点となるからです。
もちろん、私たちはその情報を鵜呑みにせず、さまざまな証拠を集めて裏付けを取ります。
ですが、情報提供元である経営陣が不誠実であった場合、意図的に嘘をつかれたり、不利な情報を隠されたりするリスクが格段に高まります。
そうなると、いくら優れた監査手続を実施しても、財務諸表に隠された重大な虚偽表示を見抜けない可能性があり、監査の品質が根本から損なわれてしまいます。
よって「そもそも信頼できない相手とは契約しない」。
これが、監査品質を守るための最初の、そして最も重要な防衛ラインになるわけですね。
(2)監査事務所の能力(Competence)と資源(Resources)
経営者の誠実性を評価すると同時に、監査事務所は自分たち自身の能力(コンピテンス)と資源(リソース)も厳しく吟味しなければなりません。
具体的には、以下の点を総合的に判断します。
• 業界知識・経験: 対象クライアントが属する業界に関する十分な知見があるか。
• 人的・時間的資源: 監査に必要な専門性を持つ人員と十分な時間を確保できるか。
• 他監査人との連携: 海外子会社などがあり、他の監査人(Component Auditors)の協力が必要な場合、その連携は円滑に行えるか。
• 報告期限: クライアントが要求する監査報告書の提出期限に間に合わせることができるか。
これらの判断は、USCPA試験Blueprintのエリア1(一般原則)やエリア2(計画策定)における資源配分の要件にも直接関わってきます。
(3)前任監査人がいる場合の特別な手続き
クライアントが監査事務所を変更するケースでは、特別な手続きが求められます。
この場合、新しく監査を担当する監査人を「新任監査人(Successor Auditor)」、前期まで担当していた監査人を「前任監査人(Predecessor Auditor)」と呼びます。
監査基準では、新任監査人は監査契約を受け入れる前に、必ず前任監査人にコンタクトを試みなければならないと義務付けられています。
これは選択ではなく、必須の手続きです!
連絡を取る主な理由は以下の2点です。
1. 監査人が交代した理由の把握: 前任監査人とクライアントとの間で、会計処理や監査の範囲について意見の対立がなかったかなどを確認し、リスクを評価します。
2. 経営者の誠実性(Integrity)に関する情報の入手: 前任監査人の視点から、経営者の誠実性に疑問符がつくような情報がなかったかを確認します。
3. 契約の締結:責任範囲の明確化
クライアントの受け入れを決定したら、次のステップは監査契約の締結です。
これにより、監査人と経営者の間の責任範囲が正式に文書化されることになります。
(1)監査契約の前提条件:経営者の3つの責任
監査契約を結ぶ大前提として、経営者が以下の3つの責任を理解し、受け入れることに合意する必要があります。
1. 財務諸表の作成と適正表示の責任(Preparation and Fair Presentation):財務諸表を作成する責任は、あくまで経営者にあります。監査人はチェックする側であり、作成者ではありません。
2.内部統制の整備・運用責任:エラーや不正を防ぐための社内ルールやプロセスを 設計(Design)し、導入(Implementation)し、そして有効に機能し続けるように維持(Maintenance)する責任です。
3. 監査人への情報アクセスの提供責任:監査人が必要とする全ての会計記録、関連文書、そして従業員への質問の機会などを、制限なく提供する責任です。
(2)監査契約書(Engagement Letter)の役割と記載内容
監査契約書(Engagement Letter)は、いわば「監査の設計図」であり、「ルールブック」です。
契約書の作成と合意は、ブループリントのエリア1(一般原則)で要求されている重要な手続きの一つです。
この法的に拘束力のある文書には、主に以下の内容が記載されます。
• 監査の目的と範囲
• 適用される会計基準(例:米国会計基準、国際会計基準)
• 監査報告書の形式
• 経営者の責任と監査人の責任(責任分担の文書化)
• 監査人が提供するのは「合理的な保証(Reasonable Assurance)」であり、「絶対的な保証(Absolute Assurance)」ではないこと。
5つ目の監査人が提供するのは「合理的な保証(Reasonable Assurance)」であるというのは、監査には巧妙に隠された不正を発見できないなどの「監査固有の限界」があるため、全ての重要な虚偽表示を発見できるとは限らないという意味です。
(3)監査契約書に「含めない」情報
一方で、監査の独立性と実効性を守るため、意図的に監査契約書に記載しない情報があります。
監査契約書に記載しない情報は以下のようなものです。
• 重要性の基準値(Materiality Levels): どの程度の金額の誤りから「重要」と判断するかの基準。
• 具体的な監査手続の種類、範囲、時期(Specific Nature, Extent, or Timing of Test Work): 監査人が実施する具体的なテストの内容。
これを事前にクライアントに伝えてしまうと、それを逆手にとって不正を隠蔽したり、監査を回避しようとしたりする可能性があるからですね。
4. 監査計画の策定:戦略から実行計画へ
契約締結後、いよいよ本格的な監査計画の策定フェーズに入ります。
ここでは、まず計画の基礎となる記録と証拠について理解し、その上で具体的な計画文書について見ていきましょう。
(1)計画の土台:監査調書、監査証拠、監査手続
まず、監査調書(Audit Documentation)から。
監査調書とは、実施した監査手続、入手した監査証拠、下した判断など、監査の全プロセスを記録した文書です。
以下の2つの重要ポイントは必ず押さえてください。
- 監査調書は、それを作成した監査人の所有物であり、クライアントのものではない。
- 監査調書の最も重要な目的は、監査意見の根拠を示し、監査が監査基準に準拠して行われたことを証明すること。後日、監査の質が問われた際の唯一の証拠となる。
ブループリントのエリア1における文書化の要件として試験でも問われるポイントです。
次に、監査証拠(Audit Evidence)です。
監査意見を裏付けるために、監査人は「十分かつ適切な」監査証拠を入手しなければなりません。
- 十分性(Sufficiency): 証拠の量(Quantity)を指します。
- 適切性(Appropriateness): 証拠の質(Quality)を指し、その信頼性(Reliability)と関連性(Relevance)によって決まります。たとえば、会社の内部で作成された文書より、銀行から直接入手した残高確認状の方が信頼性は高いと判断されます。
さらに、監査手続(NET)です。
証拠の質と量を確保するために、監査人は監査手続の3要素である「NET」を計画します。
- 種類(Nature): どのような手続を行うか。(例:売掛金の残高を確認するために、取引先に確認状を送付する)
- 範囲(Extent): どれくらいの規模で行うか。(例:確認状を10社に送るか、50社に送るか)
- 時期(Timing): いつ行うか。(期中の手続か、期末の手続か)
(2)計画の2つのレベル:監査戦略と監査計画
監査計画は、2つのレベルの文書で構成されます。
これらの策定は、ブループリントのエリア2(計画)における要求事項です。
- 監査戦略(Audit Strategy): 監査全体の方向性を定める「大局的な方針」です。監査の目標、監査チームの構成、投入する予算、特にリスクが高いと見込まれる領域などを定めます。
- 監査計画(Audit Plan): 監査戦略に基づき、具体的な「NET」を詳細に落とし込んだ「実行計画書」です。実際の監査作業を進める上での具体的な指示書となります。
(3)計画段階で必須の手続き
監査計画を策定する上で、監査基準によって実施が要求されている重要な手続きがあります。
まずは、 分析的手続(Analytical Procedures)です。
計画段階での実施が必須の手続きです。
財務データ(売上高など)や非財務データ(従業員数など)を用いて比率や傾向を分析し、前期比較や予算比較を通じて異常な変動がないかを確認します。
これにより、リスクが高い領域を早期に特定できるわけです。
まさに「森全体を俯瞰して、特に注意が必要な木を見つけるイメージ」です。
これはブループリントのエリア2(リスク評価)の一部として非常に重要です。
そして、クライアントの事業及び内部統制の理解です。
理解は2つあります。
- 事業及び業界の理解: クライアントのビジネスモデル、会計方針、業界特有の規制やリスクなどを深く理解することは、効果的な監査計画の土台となります。
- 内部統制の理解: 全ての監査において、クライアントの内部統制がどのように設計(Design)導入(Implementation)必須です
この理解はリスク評価の基礎となるため、ブループリントのエリア2において極めて重要です。
内部統制が1年を通じて有効に運用(Operating Effectiveness)されているかのテストは、必ずしも全ての監査で要求されるわけではありません。
会計システムを支えるIT環境、特にIT全般統制(IT General Controls / ITGCs)の理解の重要性が増しています。
外部業者に業務を委託している場合は、その委託先の内部統制を評価するためにSOC 1レポートなどを利用することがあります。
5. 監査全体を貫く基本原則と専門家の利用
最後に、監査プロセス全体を通じて求められる姿勢や、外部の専門家の力を借りる際のルールについて解説していきます。
(1)他者の作業の利用(Use of Others)
現代のビジネスは複雑であり、監査人が全ての分野の専門家であることは不可能です。
そのため、一定の条件下で他者の作業を利用することが認められています。
ですが、忘れてはならない大原則があります。
それは、「他者の作業を利用したとしても、最終的な監査意見に対する全責任は、監査報告書に署名する外部監査人自身が負う」ということです。
監査人が利用する可能性がある他者は、主に以下の3つのグループです。
• 内部監査人(Internal Auditors): クライアントの従業員ですが、その能力(Competence)と客観性(Objectivity)を評価した上で、特にリスクが低く、複雑性や主観性の低い業務領域について直接支援(Direct Assistance)を依頼することができます。
• 専門家(Specialists): 評価専門家、年金数理人、不動産鑑定士など、会計・監査以外の専門家です。その能力と客観性を評価した上で、作業結果を監査証拠として利用できます。
• 構成単位の監査人(Component Auditors): 連結財務諸表の監査において、子会社や関連会社(構成単位)の監査を担当する別の監査事務所です。主たる監査人(グループ監査人)は、その作業の品質をレビューし、グループ全体の監査意見を形成するために利用します。
(2)監査人の心構え:倫理、独立性、専門的懐疑心
監査人には、専門知識以上に、その職務を遂行するための高い規範と精神的な態度が求められます。
これらはブループリントのエリア1の根幹をなす、監査人に求められる基本的な資質です。
• 倫理(Ethics)と独立性(Independence): いかなる状況でも公正不偏な立場を堅持し、クライアントから独立した客観的な視点で判断を下さなければなりません。監査対象に応じて、AICPA、SEC/PCAOB、GAO(政府監査)、DOL(労働省)などの様々な規則を遵守する必要があります。
• 専門的懐疑心(Professional Skepticism): 「本当にそうだろうか?」と常に疑問を持ち、経営者の説明を鵜呑みにせず、批判的な視点で監査証拠を評価する姿勢です。
• 専門的判断(Professional Judgment): 監査人が持つ知識、スキル、経験に基づき、監査の様々な場面で直面する複雑な状況に対して、最善の意思決定を行う能力です。
まとめ:監査開始と計画の5つの重要ポイント
最後に、この記事の内容を踏まえ、USCPA試験のAUDセクション合格のために意識すべき学習ポイントを5つにまとめます。
(1)監査の時系列的な流れを理解する
「クライアント・アクセプタンス → 契約 → 計画 → 事業・内部統制の理解」という一連の流れを頭の中で描けるようにしましょう。
この流れをつかむことが、個々の論点を体系的に理解する鍵となります。
(2)重要専門用語を英語で正確に覚える
重要な専門用語は、日本語の意味だけでなく、必ず英語で正確に覚えてください。
MC問題、TBS問題の両方で問われます。
- Integrity
- Engagement Letter
- Reasonable Assurance
- Audit Documentation
- Sufficient Appropriate Audit Evidence
- NET
- Audit Strategy/Plan
- Internal Controls
- Predecessor/Successor Auditor
- Professional Skepticism
(3)ブループリントとの関連を意識する
今学習している内容が、ブループリントのエリア1(倫理・一般原則)とエリア2(リスク評価・計画)のどこに位置づけられるかを常に意識しましょう。
これにより、学習の優先順位付けがしやすくなります。
(4)経営者と監査人の責任の違いを明確に区別する
「財務諸表の作成責任は誰にあるか?」「内部統制を整備する責任は?」といった、責任の所在を明確に区別することは、監査の基本であり頻出論点です。
常に意識して学習を進めてください。
(5) IT統制の重要性を認識する
IT環境、特にIT全般統制(ITGCs)の基本的な概念と、それが監査全体に与える影響についての出題は増加傾向にあります。
苦手意識を持たずに、基本的な部分はしっかりと押さえておくことが合格への近道です。
以上、「【AUD基礎講座 1/4】監査の開始と計画を完全攻略!AreaⅠとⅡ 」でした。
監査の体系的なプロセス、監査人がクライアントを受け入れる際の経営者の誠実性の評価や監査人の能力といった初期の考慮事項、そして監査契約書の重要性について説明したけど理解できたかな?
監査意見の根拠となる監査証拠の「十分性」と「適切性」の概念、監査計画の策定、クライアントの内部統制の理解の必要性、さらにはIT統制の重要性や先行監査人への連絡義務など、USCPA試験の出題範囲(ブループリント)と関連付けながラよく理解して、得点源にしてね。
USCPA試験については、どこの著書『USCPA(米国公認会計士)になりたいと思ったら読む本』も参考にしてくださいね。
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まだUSCPAの学習を開始していない場合「USCPAの始めかた」も参考にしてください。